いぬの夜鳴き

夜鳴きと怪文書

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のんき

クトゥルフ神話TRPGシナリオ「ようこそ!迷冥市役所都市伝説課へ!」(作者:夜空様)のネタバレがあります。

探索者の二次創作妄想SSです。
お題は「# リプもらった番号のワードを使って文を書く」からお借りしてます。
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 まろい頬に手を伸ばす、壊さないようにそっと。
 ふに、と指が沈んで返るその感触を楽しんでいると結梨の口からぷすぅと空気が漏れる。こんな場所に似合わないぐらい、気の抜けた顔。
 忘れられない、忘れることができないあの夏の日。
 今よりももっと小さくて柔らかかった頬をつんとつつく。人の持つべき体温を無くしたそれを、ただただつつく。つついて、つついて、それだけ。呼吸の仕方すら忘れたのか、そう思いながらそれから目を背ける。そこには俺の姿が描かれていた。

 すぅ、という寝息が聞こえて意識がじっとりと暑い夏の日から返ってくる。
 頬から手を離し頭の上にそっと置いて、やわらかな日差しの下、楽しい夢を見ているであろう彼の、自分とは違う黒を優しく撫でる。ボサついてきたところで手を離し、近くにあった毛布をかけてやる。
 くあ、と大きく口を開けながらゆらゆらと形を変えていく。二足から四足へ、黒と赤はそのままにとててとソファへと駆け上る。くるりと丸まりもう一つ大きな欠伸。
 今日も迷冥市役所都市伝説課は閑古鳥が鳴いている。
▶とじる

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#都市伝説課 #カミシロ

怪文章

君との距離は45センチより近い

その時の雰囲気で描いた自探索者夢小説風SS。
十二星座館牡牛座PC。

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 コツ、コツと規則正しく靴が鳴る。
 少しだけ先を行く彼の背中に言葉を投げる。
 誰だって良かったじゃないか、どうして自分だったのか──と。
「あなたが良い。それ以外の理由はないですよ」
 彼が振り向いて微笑む、それだけなのに体中の熱が顔に集まる。
「頬っぺた、真っ赤」
 ひんやりとしたものが頬に触れる。
 それが何かは考えなくてもわかる。
 くすくす笑う彼がちょっとだけ腹正しくて睨む。
 ごめん、と言うが謝るつもりはないようで、ふにふにと頬の感触を楽しむように指を動かしてくる。
 楽しそうに人の頬をいじる彼を見ているとムカついている自分が馬鹿らしく思えてくる。
 思わずため息をつくとピタリ、手が止まる。
「……怒ってます?」
 いいや、怒ってない……と素直に言う気にはならかった。
 彼の腕をぐいと引っ張る。
 わ、と体勢を崩した彼をその勢いのままぎゅうと抱きしめる。
「え……どうしたの?」
 先ほどまで余裕そうだった彼の声がわずかに揺れる。
 どうしてだと思う、と問えば彼はうぅんとわざとらしく唸ってみせて「君も僕が良いって、思ってくれたから?」とサラッと言ってのけた。
「もう、素直に言ってくれたらいいのに」
 するりと彼の腕が背中に回る。
「聖夜に誘うのは大事な人だけって、決めてるんです。だから誰でも良かったんでしょ、なんて言わないで?」
 ドク、ドクと心臓が鳴る。
 気が付けば熱は顔どころか全身に、そして彼の頬に伝わっていた。
▶とじる

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#アイン

怪文章

ちょっとだけ普通じゃない日

クトゥルフ神話TRPGシナリオ「春を呪うひとへ」(作者:ごくつぶし様)のネタバレがあります。

探索者の二次創作です。
あくまでも自分がこのシナリオを経て書きたくなった妄想SSです。
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 じゃあねと手を振って自分の道へ。いつもより少しはしゃぎながら、俺たちはあの十字路で別れた。リボン結びされたマフラーを揺らしながら三年間を頭の中で再生する。
 春に始まった俺の高校生活は次の春が来ると終わってしまう。けどそこで生まれた友情は確かにあって、それはこれからも続いていくんだろうな。なんの根拠もないのに、そう思った。

 あれから一年、一年だ。あっという間に春が来た。椿原とあの十字路で別れてから、それっきり。
 別に自分には椿原しか友達がいないわけではない、それでも俺の一番の友達はあいつだったはずなのに。もしかして怒らせるようなことをしてしまっただろうか。あぁもしかしてあの本借りたまんまだったのが原因?
「とはいえ未読無視は傷つくんだけど」
 毎日のように送っていたメッセージがあの日を境に一方的な近況報告になっていって、毎日一番上に並んでいた「椿原」の文字は下へ下へとどんどん下がっていく。そのたびに「元気?」と送って更新する。返事は今日も来ない。


 十年ぶりにゴッホの絵が日本に来るらしい。その話を聞いたのは新しい連絡先が二人増えてから一週間経った朝。展示会が来週から始まるようで、画面の向こうの司会者は熱心に紹介している。その声を右から左に受け流し、スマホを見る。時間は七時を指していた。

「うわ、人多っ……」
 一週間と少し経った土曜日。人の数は開催後の勢いのまま減ることはなかったらしい。
 ぶつからないように歩いて一枚の絵の前に立つ。
 今回の目玉の一つ、「夜のカフェテラス」。明るく光る太陽やひまわりと違って夜の風景を描いた一枚。夜といっても暗く重いわけじゃない。空には秋の星々が、地上にはカフェや建物から漏れ出すガス燈の明かりが道行く人々を照らしている。
 昔見たぐるぐるしたあの星とは違う、ぽつぽつと明るく優しく光る星。ゴッホが入院する前に描いた夜の景色は初めて見るはずなのに、なぜか懐かしかった。
「なぁなぁ、これお前が見たいって言ってたやつ?」
「違うよ、こっち」
 学生らしき少年たちの声が聞こえて思わず視線を絵から隣に移す。学生らしい少年たちはあの日の自分たちによく似ている。
「ゴッホって『ひまわり』のおっさんじゃないの。なんかめっちゃ夜の絵ばっかりじゃん」
「君が思っているよりゴッホは夜景を描いているんだよ」
「ふーん。……俺あんま詳しくないけどさ、お前がこれ好きってのはなんとなくわかるかも」
「なんとなく?」
「こう、光ってはいるけど静かな感じが」
「ふふ、そっか。君にはこの景色がそう見えるんだね」
「ん!」
 そう明るく答えた少年は「ごめん、トイレ! そこで見てて」と早足で離れていく。そこに残された大人しい少年は静かに絵を見つめている。
 少年の視線を追うようにもう一度、絵を見る。光っているけど静かな感じ、その言葉が頭の中でカラカラと回転する。そういえば、あの時自分は「星月夜」を見てなんて答えただろうか。そう確か、
「すごい、な」
「え……?」
「えっ! あ、ごめんな。口に出てた?」
「あ、はい」
 拾われると思っていなかった言葉が突然掬われて思わず横を見ると、少年も少し驚いたようにこちらを見ていた。
「……友達と来たの?」
 会話が続くと思っていなかったのであろう、少年はこちらを伺うように見ながら「はい」とだけ答えた。
「俺もさ、昔君たちみたいに来たんだ」
「……今日はお一人なんですか」
「うん」
「喧嘩でもしたんですか」
「ううん。そいついま海外にいると思うから」
「連絡とかって」
「取ってないよ。けどさ、便りがないのは良い便りだって言うじゃん?」
「あぁ、なるほど」
 ここは美術館、あまり長話をしては迷惑になる。それを思い出して「ごめん」の一言で話を切り上げて立ち去ろうとする俺に、隣の少年はぺこりとお辞儀だけ返した。
 ゆっくりと展示物を見て回って、最後にもう一度「夜のカフェテラス」の前へ。少年たちの姿はもちろんない。きっと彼らも見て回っていることだろう。
「あの人、どっちかというと春っぽくないですか?」
 そう菊池が言っていたのを思い出した。他の人もそう言うのだろうか。
(けど、やっぱり秋っぽいんだよな。椿原)
 根拠もくそもないけれど。俺が夏ならあいつは秋、月が綺麗な長い夜。明るい星は多くないけれど勇者の物語をなぞるように星座が並ぶ。冬の始まりを告げる季節。

 美術館から出ると冷たい風が頬を撫でていく。もう春だというのにまだ少し肌寒い。
 通知を切っていたスマホの電源を付ける。


 君と会わなくなって十年経った。親友だって思っているのは、いまでも変わらないよ。
 一緒にいろんなところへ行って、いろんなことを共有した青い君の傍にいるのが、いまを生きている俺でないことがとても寂しい。
 でも色づいた君が俺の知らないどこかで元気にやっているのであれば、それで良いです。
 借りたままの本は多分一生返せないとは思いますが、それについては目を瞑ってくれると助かります。
 ​今年の春は寒いので早く夏が来て欲しいと、陰日向に咲くひまわりは思っています……なんてね。


「今日、ゴッホの絵見てきた。お土産、ポストカードでいい?」
 一言、メッセージを送る。椿原と書かれたトーク画面には俺からの言葉で埋まっていた。
 返信は、多分もう来ない。
▶とじる

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#春を呪うひとへ #日向葵

怪文章

とけた。こぼさないで

クトゥルフ神話TRPGシナリオ「金糸雀の欠伸」(作者:しもやけ様)のネタバレがあります。

探索者の二次創作です。
あくまでも自分がこのシナリオと自陣を受けて書きたくなった妄想SSです。
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 日差しが強い、どうやら梅雨が明けたらしい。暑いのはあまり得意ではないが、こういう状況だと日中は少しばかり助かる。帽子を深くかぶり直しつつ隣を見る。袖を捲っている彼女の顔は少しばかり赤い。俺と違って彼女の装備はサングラス。いまの彼女に合う帽子がなかったから仕方がないとはいえ、このままでは病院の扉を叩くことになりかねない。
 人気が少なくカメラもなさそうな影まで彼女の腕を引っ張る。どうしたのだ、と言いたげな彼女の顔に手を伸ばそうとして、止まる。万が一にも顔を見られてはいけない。少し考えてから、被っていた帽子を外す。そしてそのまま彼女に顔を近づける。
 誰かがぎょっとこちらを見たかと思えば、しかめっ面でそそくさと離れていくのを視界の隅で捉えて笑う。そうだ、そのまま離れていってくれ。俺たちのことなんて見つけないでそのまま。

「帽子、浅葱さんが被っててください。少しだけでも違うでしょう。代わりにサングラス貸してください、ほら」

 え、でも、と言う彼女の顔からそっとサングラスを外す。こちらをじぃと見つめる露の玉と目が合う。

「いいから。本当は水分取ってもらった方がいいんでしょうけどこの辺り、人が多いんで。もう少し離れたところまで我慢してください」

 ね、と自分たちの顔を隠していた帽子を彼女に被せる。男物のそれだけが彼女から浮いて見える。

「いえ、こちらこそすみません。着る物も、どうにかできればいいんですけどそうも言っていられないので」

 彼女のサングラスをかけると視界が少し暗くなる。そうだよね、と頷く彼女は帽子を深く被り直している。来た道を見ると人と目が合う。向こうは気まずそうに去っていく。あの人には自分たちはどう見えたのだろうか。

「何だって良いじゃないですか。勘違いしてくれるのならそれはそれで助かります」

 当たり前のように彼女の腕をとり、歩く。この暑さにも関わらず彼女の体温は少しだけひんやりしている。気持ちいい。
 前からは学校帰りの小学生たちが走ってくる。彼らは元気よく自分たちの横を通り過ぎていく、そんなよくある光景。

「……だめですよ、アイスは諦めてください。言ったでしょう、人が多いんだって」

 よそ見をする彼女を咎めながら足を動かす。同じように忙しなく移動する人々はこちらのことなど見向きもしない。みんなそうだ。外れた道での行為は気になるのに大通りに出てしまえば何も目に入らない。あまりにもカラッとしていて、空気を吸うだけで乾いてしまう。前からやってくる人を避けながらも進んでいく。あぁ、暑いな。アイス、悪くはないけれど。糖分、良いな。だけど。

「えぇ……そんなに食べたいんですか。俺は良いです、いま食べるとのどが乾ききってしま……」

 つい、口を滑らせた。あぁしまった。先ほどまで自分に腕を引かれていた彼女が今度はこちらの腕を取って店へと向かっていく。普段ならこんな無茶しないのに。狭い歩道でのテイクアウト専門だからだろうか、客はその場にたまらずさっさと離れていく。だから大丈夫だなんて保証はないのに彼女はさぁとメニューを指さす。どうせこの人は自分が誘っておいて全部食べきらない、だから俺の好みをいつも聞いてくる。

「……じゃあ抹茶を」

 なるべく店員とは目を合わさず、最低限の言葉でやり取り。あまり好ましくない態度であっても、いまはそうする。

 アイス片手に彼女とわき道に逸れる。先ほどまで多さが嘘のように、人がいなくなる。遠くからは子どもの声。公園が近いのだろう、なるべくそちらかは遠ざかる。くい、と腕を引かれる。口を開こうとすると目線は俺の手元。先ほどまで形を保っていたそれがドロリと溶けていく。

「行儀悪いじゃないですか、食べ歩きなんて」

 そんな場合じゃない、と訴えかけてくる視線に負けて緑の山に口を付ける。ほのかな甘さと冷たさで、少しだけほっとする。

「えぇ、まぁおいしいですけど。ほら、浅葱さんも」

 彼女の方へと手を傾ける。つーっとアイスが溶けて落ちた。

「良かったですね、食べられて。けどこの出費大きいですよ。次の町でのご当地ドリンクはなしにしますから、そのつもりで」

 当分切り詰めないとと言うと、少しだけ申し訳なさそうな声色でそうだね、と返ってくる。出会ってすぐの俺ならばその反応に困ったかもしれない。けどいまはちゃんとわかる、この反応は別に申し訳なさから来ているものじゃないって。
 まだ日差しは強い。今の内に行けるところまで行こう。暗くなると案外動けないものだから。薄暗い視界の中、露草が揺れた。

「わかってますよ。ちゃんと二人で寝れる場所を探しますって」

 ぱり、とコーンを齧る。近くを子ども連れが楽しそうに通る。すると少女がくるりと振り向き俺たちを指さす。

「ねぇおかあさん。あのお姉さんのサングラス、あたしもほしい!」
「大きくなってからね」

 すみませんと母親がこちらにぺこりとお辞儀をして去っていく。ぺこりとお辞儀だけ返す。

「……行きましょうか」

 残ったコーンを口に放り込み、手についたカスを落とす。彼女は横に並び、頷いた。
▶とじる

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#金糸雀 #片桐剛

怪文章

俺の拳銃には弾が全弾入ってる

クトゥルフ神話TRPGシナリオ「金糸雀の欠伸」(作者:しもやけ様)のネタバレがあります。

探索者の二次創作です。
あくまでも自分がこのシナリオと自陣を受けて書きたくなった妄想SSです。
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 ──ぱん。
 気付いてた、聞こえた。

「ごめんね。……ばいばい」

 それなのに俺はそれを許してしまった。
 起きたくない、そう思ったのはいつぶりだろうか。
 ぬるりとした感触と、すんと鼻を掠める鉄の匂い。
 ああ嫌だ、これを認めてしまったら俺はどうすればいい?
 俺はあれから何も変わってない。変われてない。
 目を開く勇気がない。かけるべき言葉もない。
 隣にはもう、誰もいない。



 体を起こし、手錠を外す。どうやら夜中に降っていた雨は止んだらしい。
 浅葱さんはよく寝ている。起こすのは申し訳ないが、そろそろ行かないとまずい。
 立ち上がって、歩き出す。上着は汚れてしまったから置いていく。

「暖かい海がいいって……バカンスじゃないんですから。まぁこんな海と比べたらよっぽど良いですけど」
▶とじる

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#金糸雀 #片桐剛

怪文章

青+黄+赤=黒

クトゥルフ神話TRPGシナリオ「金糸雀の欠伸」(作者:しもやけ様)のネタバレがあります。

探索者の二次創作です。
あくまでも自分がこのシナリオと自陣に影響を受けて書きたくなった妄想SSです。
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 テレビに映る、今年のヒーローたち。勧善懲悪、悪は必ず正義に倒されて、悲しむ人たちはみな救われる。毎年入れ替わり立ち代わり並ぶ色とりどりの正義の味方。
 その四角い箱の中にはみんなの希望と夢が詰まっていて、それに惹かれる子どもたちがたくさんいた。俺も、その一人だった。

 俺はヒーローの中でもブルーが好きだった。クールでかっこよくて、率先してみんなを助けるレッドのサポートをする。追加戦士とは違って、最初からレッドと人を助ける、そんなブルーになりたかったんだ。
 だからこそ俺も周りを見るようにしてみたし、敬語を使うようにもしてみた。ちょっとした背伸びだけでは届かないことを知ってからは有言実行を目指した。どこにも届いてはいなかったけれど。

 悲しんでいる人は、助けたい人は、この世にはいっぱいいる。
 それなのに目の前で声をあげた人たちを誰一人すくえず、全部、全部取りこぼした。掬い上げることすらできないのに救えるわけがない。救うという考え自体が間違いだったんだって気が付いたのは、走り出したあの時。気が付くのが、あまりにも遅かった。

 ──レッドもブルーもイエローも。正義の味方が何人いても、救えないんだったらそれは誰の味方でもないんですよ。
 教えてください、俺は、俺たちは、誰の味方だったんですか。
 
 殺したい感情を取り押さえることは、自分の信じるものを信じることは、死にたい人を生かすことは、罪になりますか。

「答えてくれませんか。本城さんの件を見たからなんでしょうか、今日は一人だと考えがまとまらないんです。あなたが疲れているのは知っていますけど俺のために答えてくれませんか、浅葱さん」


 疲れたとしても、足を止めてはいけない。考えることも、やめてはいけない。
 絶望したってなんだって、構わない。それでも自分は、自分たちだけは生きなければいけない。「ちゃんと伝えてくれ」とあの人は言った。「逃げろ」とあの人は言った。
 そういえば誰かが言った。「片桐は優しい」のだと。優しいとは、どういうことなのだろうか。
 正しいと思い込んでいることをするのが優しいのか?
 それとも相手の思っているような反応を返すことが優しいのか?
 疲れたと言って足を止めた人を引きずってまで逃げている俺が、果たして優しい人間なんだろうか。
 歩く。まだまだ汚い海の横。青い海まではもう少しかかる。
 俺は今日も生きている、歩いている。誰もいない、一人。大声を出してもきっと正義の味方には聞こえないようなこの世界で。
▶とじる

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#金糸雀 #片桐剛

怪文章

傘は当分いらない

クトゥルフ神話TRPGシナリオ「こゝろ」(作者:333屋様)のネタバレがあります。

探索者の二次創作です。
あくまでも自分がこのシナリオを経て書きたくなった妄想SSです。
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 ふぅ、と息を吐いて手を止める。気づけば空に浮かんでいるのは青と混ざり合った橙。どうやら自分は思っていたよりも長い時間手を動かしていたらしい。

 あの悪夢のような数日から時が流れた。じい様にでこぱち、はらまる。みんながいなくなった家はとても広くて、一人きりで過ごすことは正直今でも慣れていない。食事は二人前つくってしまうし、うっかりじい様が見ていたドラマの録画を続けてしまう。それでも帰ってきてすぐの頃と比べるとだいぶ心は軽い。もう枕を濡らすようなことはしていない。なんなら鼻歌交じりにこうやって家の掃除だって一人でできるのだ。

 掃除はもっぱらじい様の仕事だった。体が大きくなってからは多少手伝いもしたけれど、やれ「埃を吸うな」だの「重い物を運ぼうとするな」だの散々言われ、最終的に大掃除では窓拭きぐらいしかしていなかった。窓拭きだって体力を使うではないか、と思ったがほかの誰でもないじい様から頼まれた仕事だ。そりゃもう何日もかけて家中の窓を綺麗に磨き上げたとも。
 窓拭きと占いって似ていると思う。曇っている窓を俺が丁寧に拭いてやれば見えてなかった景色が見える。こうしてみればいい、と提示すれば迷いに迷って視界が狭まってしまった人たちの表情も晴れる。窓と心、どちらも外から内からどんどん曇っていくものだ。だからこそ誰かが拭いてやらないといけない。
 戻ってきてすぐ、四十九日もまだ終えていないような時期。俺はあのまま仕事を辞めるつもりだった。元々誰かさんの笑顔のために始めたことで、職自体にそこまでこだわりがなかったから。でも結局辞めなかった。
 物事を新しく始めるのが苦手だったり、生きていくのに必要な稼ぎを得るためであったり。何よりも自分を贔屓にしてくれている人たちの曇りを拭ってやることにやりがいを感じていたから。
 俺はカウンセラーでもないし、精神科医でもない。だから絶対的な安心感を迷える彼らに与えてあげることはできない。それでも俺を頼ってきてくれる人たちがそこにいる、それならばその手を取って、少しでも気分を晴れさせるべきではないだろうか……なんて。かっこつけたことを言ってみたが、実際のところは常連さんにだけ窓口を開けていたらそのまま辞め時を見失ってしまっただけ。そう、それだけなのだ。

「っと、そうだ」
 窓を閉めて本棚と向き合う。棚は動かないように固定されているけれど、あの村の部屋と同じように本がずらりと並んでいる。小説やエッセイ、そして料理の本。
「今日は~何を食べようか~」
 これかな、あれかな、と本を取り出しなら歌う。今日は蒸し暑いからそうめんにでもしてしまうおうか。そういえばアイスがまだあったなぁ、デザートに食べようか。
「ん?」
 料理本に混ざって並んでいる一冊の旅行ガイド。手に取り見てみると、ここからあまり遠くない温泉地。
「ここ、じい様行きたいって言ってたとこ……」
 随分前。そう、確か修学旅行の日に熱を出した俺に、じい様が「錦生が元気になったら行きたい」と言っていたあの場所だ。間違いない。結局じい様がそのまま入院してしまったので実現することはなかったけど。
 ぱらぱらめくると目に入ってくるのは「単純泉」の文字。ははぁ、確かに肌に優しいこれならば自分やじい様でも入りやすかったはずだ。
「病後の回復期にぴったり、かぁ」
 どうしてこの場所をじい様が選んだのかは本人じゃないからわからない。だけど俺と一緒に行きたいと思っていてくれたのだけは本当だ。

「──いい機会、かもしれないねぇ。じい様」
 今日の夕飯は有り物だけでなんとかしよう。それよりもやらなければいけないことができた。さっさと食べて宿を取ろう。それから大きな鞄を探そう。あの日持って行ったものよりも大きな……じい様の押入れから掘り起こせばあるかもしれない。それから着替えも出そう。あと必要な物はあるだろうか?
 そうだ。万年筆、どこに置いたかな。紙は……うぅん、もういっそ現地で探そうか、うん、そうしよう。

 明日、朝から旅に出よう。
 そんなに大した距離じゃない、電車を乗り継いで行けるぐらいの場所だけど。
 まずは宿に荷物を置いて、食べ歩きでもしようか。そうだ、ついでに土産物も見ていこう。確かここは織物なんかも有名だったはずだ。おしゃれな物があるかもしれない。
 宿に戻ったら温泉にゆっくりと浸かって。夕飯を食べたら手紙を書こう。いま自分がどこにいて、何を見て、感じたのかを。
 宛先はもちろん、あの人に。

 明日の天気は晴れ。東錦生のぶらり一人旅は、きっと楽しいものになる。
▶とじる

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#こゝろ #東錦生

怪文章

東錦生より、

クトゥルフ神話TRPGシナリオ「こゝろ」(作者:333屋様)のネタバレがあります。

探索者の二次創作です。
あくまでも自分がこのシナリオを経て書きたくなった妄想です。
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そうめんが美味しい時期になりました、お元気でしょうか?
じい様のことです、ちゃんと天界へとたどり着き、のんびりなさっていることでしょう。
私はようやく「元気」と言えるようになりました。
もちろん体の方はあの日からだいぶ軽くなってます。
いまではスキップしながらショッピングだって朝飯前です。

さて、堅苦しい挨拶はここまで。
じい様、聞いて驚け、俺はいま、温泉に来ています!
温泉ですよ、温泉。初めて来たよ、近場とはいえ。
部屋からは海も見えるんだ。すごい人が多いから。さすがに一人で海水浴をする勇気はないので窓から眺めているだけだけど。

そういえば、こっちではもうすぐ七夕なんだけどそっちはどう?
天の川、目の前にあったりするの? 気になるなぁ。
じい様のことだから天の川が目の前に流れてたら釣りでもしてるんでしょ。
天を泳ぐ魚って、どんな魚なんだろうね。

話が道草食ってしまった、ごめんごめん。

なんで唐突に温泉なのかって話なんだけどさ、じい様が行きたいって言ってたからさ。
俺がいたから行けなかったとこ、いっぱいあるじゃん?
だから俺が代わりに行こうかなって思ったんだ。俺はじい様じゃないんだから代わりに行ったってって話なんだけど。

けどさ、
ここがどういう場所だった
景色は悪くなかった
これが美味しかった
お土産にこれを買った
きっとこれを読んでいるじい様は「ずるい!」と言うだろうな、うんうんその様子が目に浮かぶよ。

ただ俺が見て、感じた話をさ、じい様に次会えたときにしたいなぁって、思っちゃったからさ。だから行くことにした。自分勝手な話でごめんね。

これからは度々こうやって「全国各地の錦生くん便り」を書いて墓に添えておくからちゃんと読んでね? そのままにしないでよ? じい様よく出しっぱなしにするんだから。


俺は元気に生きてます。
じい様も、どうかそっちでどんちゃん騒ぎしていてください。
それともし。父さんと母さんとシロがいたら、こう伝えてください。

「愛しの錦生くんはそちらに行くのが遅くなります。なので焦らず気長に待っていてください」



東錦生より、大大大好きじい様へ 愛を込めて
▶とじる

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#こゝろ #東錦生

怪文章

やなゆき雰囲気SS

表記はやなゆきだけど正確には「柳とゆっきー」です。
アンデュ時空がベースの二次創作。
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「えー、っと、ゆっきー?」
 どうしたの、なんてよく言えるよな。
「先輩、あんた自分が何をしたかわかってます?」
 彼の首から腕にかけて、包帯の白が嫌でも目に入る。
 先の事件で、柳先輩は俺を庇って負傷した。撃たれたのは肩、あの変な世界と同じ箇所。ただあの時と違って傷口から溢れる血は全然止まってくれなかった。本人は大したことはないなんて言って笑っていたけれど、その表情はいつもよりも白くて。傷口を押さえていた布がどんどん赤く染まっていくのを見て「もしも」を一瞬考えてしまうほどだった。結果的に無事だったとはいえ、理由としては十分過ぎた。
 自己犠牲なんてもの、する方は気分がいいかもしれない。じゃあされた方はどうかって? 最悪だよ。何度も何度も、相手が死ぬかもしれないと思わされるんだ。目の前のこの人は相変わらず困ったような、仕方がないなといった表情でこちらを見ているではないか。ふざけるな。頼んでもいないのに守ってくれるなよ。俺はあんたの庇護対象じゃない。
 ぎり、と下唇を噛む。口の中にじんわりと広がる鉄の味に自分にしては珍しく、苛立っているのだなと感じる。
「とりあえず落ち着けって。ほら、とりあえず離れて離れ──」
 ドン、と彼の言葉を遮るように力に任せて拳を目の前の壁に叩きつける。彼との距離をぐっと縮めると「ちょ」だの「近い、近い」だの困っているらしい反応が返ってくる。
 普段は嫌ってほど人の気持ちを、表情を読んでくるくせして、こういう時だけは一ミリも汲もうとしない。わざとなのかそうではないのか、いやどっちだって構わない。俺と壁との間から抜け出そうとする彼の負傷していない方の腕を掴む。逃がさない、人の話は最後まで聞け。
「俺、先輩のそういうところ嫌いです」
 本当に、嫌いだ。
 勝手に守ろうと割り込んでくるところが、自分の命を軽んじているところが。なによりも何もわかっていないですっていうその顔が。
「本当に嫌いだ。あんたのこと」
 彼の目が少し、揺れた気がした……気のせいかもしれないけれど。「ごめんな」と言って俺の腕を乱暴にどかしたかと思うと、先輩はそのまま俺から離れていった。壁と俺との間にはぽかりと空間が残された。くそ、と悪態をつきながらその場にしゃがみ込む。
「……何に対しての謝罪なんですか、それ」
 あぁ絶対あの人わかっていない。言葉の通り、俺がただ自分のことを嫌っているのだと思いこんで。勘違いしたままの先輩はきっと逃げ回って捕まらなくなる。今すぐに追いかけて説明するべきだ、そう思っているのに動けずにいる。
「わかれよ、馬鹿」
 いつもであればこれからどうするかを考え始められる脳が、いまこの時は錆びついたみたいに動かない。はっきり言わないと伝わらない、それをわかっていたはずなのに怠った俺も大概馬鹿だった。
▶とじる

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#柳徹平

怪文章

ヒロイン、じゃない

アンサング・デュエットシナリオ「アンラッキーバレンタイン」(作者:朝菜様)のネタバレがあります。

NPCがメインの二次創作です。
あくまでも自分がこのシナリオを経て書きたくなった妄想SSです。
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 彼女が彼を初めて認識したのは、一年の文学講読の授業だった。
 この日の講義は遅延に巻き込まれた教授が到着するまで自習という、自由に見えて教室から出ることができないなんとも扱いづらい時間となっていた。
 教室全体がざわざわとして、みんながみんなスマホやペンを片手に隣に座る友人と言葉を交わす。
 彼女──水本奈津実もそんな大勢の中の一人だった。友人と話をしながら次の講義の課題をする、ただしその進みはもちろん良くない。
「うーん、ここ、どう解釈すれば良いんだろ」
「ここって?」
 ここ、と奈津実は指を指す。のぞき込んだ彼女の友人だが「私もわっかんないわ」と言い、自分の定位置に戻る。仕方ないと課題にもう一度向き直ろうとした奈津実の視界に、ななめ前に座る青年がちらつく。ふわふわとした黒髪の彼は授業で扱っている一冊を読み進めているようだった。
「でさー……ってちょっと奈津実、聞いてるの?」
 ただ黙々と本を読んでいるだけのはずなのに。周りで騒がしくしている男たちとは違う雰囲気を持っているように感じられるその後ろ姿に、水本奈津実は思わず目を奪われた。

 奈津実が青年の後ろ姿を見続けて気付けば数ヶ月経った。それだけ経ったのに彼女は未だ、彼の顔を正面から見たことがなかった。理由は簡単だ、この講義は全席指定で、奈津実は前から二列目で青年は一番前だった。そして講義が終わると青年はすぐに退席してしまうため、声をかけるタイミングすらないのだ。
「なーんて理由を色々並べてるけどさ、それって単に奈津実が意気地なしだからじゃないの」
「うっ」
 図星だった奈津実は言葉に詰まる。そう、気になるのならば話しかければ良いだけなのだ。中身なんてなんだっていい「本が好きなの?」とか「専攻は何にするの?」とか。でも彼女にはそれができなかった。
「だって真面目そうだから私みたいなのが話しかけても絶対相手にしてくれないって……」
「大丈夫だって、あんたも十分真面目だから」
「そんなことないよ。こうやって課題しながら話してるし」
「課題やってるだけ真面目よ、大真面目」
 今日も教授は遅刻するらしい。ただ前回と違って今回はしっかりと課題が出されてる。講義終了までに終わらせなければならないそれに奈津実はペンを走らせていた。
「そいやこのプリントって誰に出せばいいの?」
「えっと、一番前の列の人がまとめて持ってくって……」
 そこで奈津実はあ、と口を押さえる。それを見た彼女の友人はにんまりと笑う。
「ほら、いい口実」
「え、で、でも」
「もー、いつまでもあの頭眺めてるだけじゃ何にも始まんないよ」
 彼女の言うとおりだ、と奈津実は手を口元に添える。自分が何故こんなに視線を奪われるのか、その理由にまだ名前はつけられない。何も知らないからだ、青年のことを。
「私が見守ってたげるからさ」
「ううぅ……」
 それでも、と口ごもる奈津実だが、行くよ、という一言とともに歩き出す友人の後を俯きながらもついて行く。
「ねぇプリント、あんたが係なんでしょ? はい、これ。」
 ずい、とプリントを渡し友人は後ろにいる奈津実の腕を引っ張り、自分の前に連れ出す。
「ほら、奈津実も」
 あ、う、と言葉にならない言葉を発しながら奈津実は目の前の青年を見る。顔立ちは少し幼さが残ってはいるものの、その雰囲気は後ろで見ていたときよりも冷たさを感じない。
「水本さんのも預かって良いの?」
「──え?」
「? どうかしたの」
 不思議そうに奈津実を見つめる彼の瞳は、空みたいに青かった。
「えっと、私の名前……」
「あぁ。前にこの授業で指名されてたから……ってごめん。気持ち悪いか、話したことないのに名前知ってるのは」
「う、ううん!」
 名前、知っててくれたんだ。それだけのことなのに奈津実は先ほどまでの葛藤はどこへやら、舞い上がって心の中でダンスまでし始めていた。
「それで、プリントは……」
「あっごめんなさい! これです」
「うん。預かっとくよ」
 そう言う青年がほんの少しだけ微笑んだ。
 水本奈津実は、その微笑みに目を奪われた。

 それから少しずつだが、奈津実は青年──青井空に話しかけるようになった。例えば「この本が面白かった」、例えば「今日はいい天気だね」、例えば……。
「私なしでも話できてんじゃん! やるぅ」
「かっ、からかわないで!」
 ごった返している昼の食堂でかの友人と二人昼食を取っていると、必然的に奈津実の青い春の話へと会話は移っていった。
「で、どうなの?」
「どうなのって?」
「青井の好みのタイプとか聞いた?」
「き、聞けるわけないじゃん……」
 ああいう男は性格重視だよ、と彼女の友人はけらけらと笑う。もう、と頬を膨らませる奈津実だが突然彼女に「ねぇ」声がかかる。その声は先ほどまで話題に上がっていた青年のものだった。
「ごめん、話してる途中で。隣、座ってもいい?」
 まさか彼から話しかけられと思っていなかった奈津実は思わず「ひょっ」と情けない声を出す。そんな彼女の代わりに対面に座っていた友人が「いいよー」と返事をする。
 奈津実の隣に腰を下ろした彼は、手に持っていたトレーをそっとテーブルに置く。トレーの上には本日のカレー。普段大人びて見える彼がカレーを選んだ事実に、奈津実の口から「可愛い」という言葉が転がり落ちた。
「何が?」
「あ、う、ううん! 何でもないよ」
「それにしても青井もカレー食べるんだね」
「俺を何だと思ってるのさ。そりゃ食べるよ」
 むしろ好きだし、と言って彼はスプーンを口に運ぶ。このシーンを切り取ってみると、まるで普通の男の子みたいと奈津実は思う。
「いやだって、いっつもあんた水しか飲まないみたいな顔してんじゃん」
「どういう顔だよ」
 こういう顔。友人の真似る顔を見て、奈津実の隣に座る彼は呆れたように笑う。あ、そんな顔もするんだ。自分だけでは引き出せない表情に思わず釘付けになってしまう。それこそ友人に「奈津実、見すぎ」と言われるまで見つめてしまっていた。
「あーね、ところで青井の好きなタイプってどんな子?」
「えっ、ちょ、何聞いてるの!」
「あんたはいいから」
 突然の質問に驚く奈津実と対照的に、彼は動じた様子もなく、カレーを食べる。
「ねぇ、どうなの?」
「そう、だな」
 料理上手な人、かな。
 そう言った彼は今まで見たことないぐらい、優しい顔をしていた。

 奈津実は今、青井空の家の近くまで来ていた。
 住所は彼の友人から事前に聞いていたので、迷うことなくたどり着くことができた。
 ここまで来た理由は、二月十四日という日付と手に持つ紙袋とその中身──綺麗にラッピングされた小包──だけで十分伝わるだろう。
 メッセージアプリには友人からの「頑張って」の四文字。
 水本奈津実は、伝えたい想いがあってここまで来た。それは一年のあの日から抱えていた感情で、今の彼女の頬とは違って青い気持ち。
 吸って、吐いて。奈津実は胸に手を当てて深呼吸をする。
 ──大丈夫、きっと言える。
 そう思って顔を上げた彼女の目の前には青井空ともう一人。とても綺麗な黒髪を持つ女性がいた。
▶とじる

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#アンデュ

怪文章