いぬの夜鳴き

夜鳴きと怪文書

No.19

青+黄+赤=黒

クトゥルフ神話TRPGシナリオ「金糸雀の欠伸」(作者:しもやけ様)のネタバレがあります。

探索者の二次創作です。
あくまでも自分がこのシナリオと自陣に影響を受けて書きたくなった妄想SSです。
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 テレビに映る、今年のヒーローたち。勧善懲悪、悪は必ず正義に倒されて、悲しむ人たちはみな救われる。毎年入れ替わり立ち代わり並ぶ色とりどりの正義の味方。
 その四角い箱の中にはみんなの希望と夢が詰まっていて、それに惹かれる子どもたちがたくさんいた。俺も、その一人だった。

 俺はヒーローの中でもブルーが好きだった。クールでかっこよくて、率先してみんなを助けるレッドのサポートをする。追加戦士とは違って、最初からレッドと人を助ける、そんなブルーになりたかったんだ。
 だからこそ俺も周りを見るようにしてみたし、敬語を使うようにもしてみた。ちょっとした背伸びだけでは届かないことを知ってからは有言実行を目指した。どこにも届いてはいなかったけれど。

 悲しんでいる人は、助けたい人は、この世にはいっぱいいる。
 それなのに目の前で声をあげた人たちを誰一人すくえず、全部、全部取りこぼした。掬い上げることすらできないのに救えるわけがない。救うという考え自体が間違いだったんだって気が付いたのは、走り出したあの時。気が付くのが、あまりにも遅かった。

 ──レッドもブルーもイエローも。正義の味方が何人いても、救えないんだったらそれは誰の味方でもないんですよ。
 教えてください、俺は、俺たちは、誰の味方だったんですか。
 
 殺したい感情を取り押さえることは、自分の信じるものを信じることは、死にたい人を生かすことは、罪になりますか。

「答えてくれませんか。本城さんの件を見たからなんでしょうか、今日は一人だと考えがまとまらないんです。あなたが疲れているのは知っていますけど俺のために答えてくれませんか、浅葱さん」


 疲れたとしても、足を止めてはいけない。考えることも、やめてはいけない。
 絶望したってなんだって、構わない。それでも自分は、自分たちだけは生きなければいけない。「ちゃんと伝えてくれ」とあの人は言った。「逃げろ」とあの人は言った。
 そういえば誰かが言った。「片桐は優しい」のだと。優しいとは、どういうことなのだろうか。
 正しいと思い込んでいることをするのが優しいのか?
 それとも相手の思っているような反応を返すことが優しいのか?
 疲れたと言って足を止めた人を引きずってまで逃げている俺が、果たして優しい人間なんだろうか。
 歩く。まだまだ汚い海の横。青い海まではもう少しかかる。
 俺は今日も生きている、歩いている。誰もいない、一人。大声を出してもきっと正義の味方には聞こえないようなこの世界で。
▶とじる

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#金糸雀 #片桐剛

怪文章