いぬの夜鳴き

夜鳴きと怪文書

No.14

やなゆき雰囲気SS

表記はやなゆきだけど正確には「柳とゆっきー」です。
アンデュ時空がベースの二次創作。
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「えー、っと、ゆっきー?」
 どうしたの、なんてよく言えるよな。
「先輩、あんた自分が何をしたかわかってます?」
 彼の首から腕にかけて、包帯の白が嫌でも目に入る。
 先の事件で、柳先輩は俺を庇って負傷した。撃たれたのは肩、あの変な世界と同じ箇所。ただあの時と違って傷口から溢れる血は全然止まってくれなかった。本人は大したことはないなんて言って笑っていたけれど、その表情はいつもよりも白くて。傷口を押さえていた布がどんどん赤く染まっていくのを見て「もしも」を一瞬考えてしまうほどだった。結果的に無事だったとはいえ、理由としては十分過ぎた。
 自己犠牲なんてもの、する方は気分がいいかもしれない。じゃあされた方はどうかって? 最悪だよ。何度も何度も、相手が死ぬかもしれないと思わされるんだ。目の前のこの人は相変わらず困ったような、仕方がないなといった表情でこちらを見ているではないか。ふざけるな。頼んでもいないのに守ってくれるなよ。俺はあんたの庇護対象じゃない。
 ぎり、と下唇を噛む。口の中にじんわりと広がる鉄の味に自分にしては珍しく、苛立っているのだなと感じる。
「とりあえず落ち着けって。ほら、とりあえず離れて離れ──」
 ドン、と彼の言葉を遮るように力に任せて拳を目の前の壁に叩きつける。彼との距離をぐっと縮めると「ちょ」だの「近い、近い」だの困っているらしい反応が返ってくる。
 普段は嫌ってほど人の気持ちを、表情を読んでくるくせして、こういう時だけは一ミリも汲もうとしない。わざとなのかそうではないのか、いやどっちだって構わない。俺と壁との間から抜け出そうとする彼の負傷していない方の腕を掴む。逃がさない、人の話は最後まで聞け。
「俺、先輩のそういうところ嫌いです」
 本当に、嫌いだ。
 勝手に守ろうと割り込んでくるところが、自分の命を軽んじているところが。なによりも何もわかっていないですっていうその顔が。
「本当に嫌いだ。あんたのこと」
 彼の目が少し、揺れた気がした……気のせいかもしれないけれど。「ごめんな」と言って俺の腕を乱暴にどかしたかと思うと、先輩はそのまま俺から離れていった。壁と俺との間にはぽかりと空間が残された。くそ、と悪態をつきながらその場にしゃがみ込む。
「……何に対しての謝罪なんですか、それ」
 あぁ絶対あの人わかっていない。言葉の通り、俺がただ自分のことを嫌っているのだと思いこんで。勘違いしたままの先輩はきっと逃げ回って捕まらなくなる。今すぐに追いかけて説明するべきだ、そう思っているのに動けずにいる。
「わかれよ、馬鹿」
 いつもであればこれからどうするかを考え始められる脳が、いまこの時は錆びついたみたいに動かない。はっきり言わないと伝わらない、それをわかっていたはずなのに怠った俺も大概馬鹿だった。
▶とじる

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#柳徹平

怪文章