いぬの夜鳴き

夜鳴きと怪文書

No.9

セツ、その季節の1ページ

クトゥルフ神話TRPGシナリオ「ぼくらのシャングリラ、あの子のほうき星」(作者:すずきさん様)のネタバレがあります。

探索者の二次創作です。
あくまでも自分がこのシナリオを経て書きたくなった妄想SSです。
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 寒い、その一言に尽きる。
 地球に降りたって季節が巡った。友であり家族であるエーテロイドの名前の季節はとうに越して、今はもう冬だ。
 外出する前にぐるぐると巻かれたマフラーが首元をぽかぽかと温めてくれている状態だ。
「じっちゃん、見えとるか」
 停船しているソレイユの上に乗り、辺りを見渡す。柔らかく降ってくる白いそれを捕まえようとしては溶かしてしまう。
 これが自分の求めていた「雪」なのか、そう思うと不思議な気持ちが心にふわふわと浮いてくる。喜びとも悲しみとも少し違う、なんとも言い難い心地だ。
「もしかしたら、これが驚きじゃったのかもしれんなぁ」
 あの日失った感情。後悔はもちろんしていないけれど、もしも、を考えてしまうことは今でもある。ナツは言っていた「もしかしたらこれから感情を覚えることもあるかもしれない」と。ならばそれを願ってもバチは当たるまい。
「マスター、ここにいたのね!」
「ん? あぁナツか。どうしたのじゃ」
「ミズキがご飯だよーって言ってたから。呼びに来たのよ!」
「わかった、すぐ戻る」
「……これが雪なのね」
「そうらしいのぉ」
「ふふ、マスターにピッタリね!」
 目の前の彼女はにっこりと笑う。
「じゃのぉ、ワシもそう思う」
▶とじる

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#ぼくシャン #セツ

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