いぬの夜鳴き

夜鳴きと怪文書

No.5

近重みつかの日常

探索者の二次創作妄想SSです。
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 「いやぁ助かったよ、みつかちゃん」
「なに、当然のことをしたまで! また何かあったら言ってください」
 彼女はそう言うとにこりと微笑み、その場を後にした。

 彼女──近重みつか──の朝は、ご近所に住むお年寄りたちに挨拶することから始まる。「調子はどうだい?」「ぼちぼちですね」とたわいのない会話で済むこともあれば、今日のように一つ事件を解決に導くこともある。
 先ほど受けた依頼は「家の鳩時計が壊れて動かない」というもの。専門の業者に頼めばよいが、残念ながら近所にはない。困り果てた依頼人はそこで、目の前をちょうど歩いていた彼女に声をかけたのであった。
「頼む、この通りだ!」
「このぐらいお安いですよ、この私に任せてくださいって」
 彼女は探偵だ。どんなに小さな事件だとしても、基本的には断らない。それが事件と呼べないような、ちょっとした困りごとであってもだ。そこが彼女の美点であり──。

「ん?」
 振るえるスマホをズボンのポケットから取り出せば、そこには「先生、いまどこですか」の一文。よくよく見れば、数時間前からにも似た文言が“何度”も届いている。彼女は思わず「しまった」と声を上げた。

 そんな彼女の欠点は、助手に一言の相談もなしに話を進めてしまうところだ。
 今回の「鳩岩戸引きこもり事件」についても、もちろん例外ではなかった。
 慌てて返信しようとする彼女を責めるように画面には見慣れた名前と番号が並ぶ。
「……やれやれ、どう弁明したものか」
 ハハハと乾いた笑いを浮かべた彼女はよし、と意気込み左へスワイプする。
 近重みつかの午後は、助手のお説教から始まるのだ。
▶とじる

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#近重みつか

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