いぬの夜鳴き

夜鳴きと怪文書

No.37

ちなみに朝までゲームした
ルームシェアをしている男子がコンビニにアイスを買いに行くだけのお話

「BL超短編企画」参加SS
お題から「長い夜」「デート」をお借りしてます
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 ペラペラと雑誌をめくっていれば、突如ソファの空いたスペースにドスンと一人分の重さが増える。
 何事かと雑誌から視線を上げれば、そこにはこちらを覗き込んでくる顔。

「うわ、ちっか」
「あ、わり」

 少し動けばぶつかってしまういそうなほどに近い距離に、つい反射で身を引いてしまった。
 その様子を見たからか、目の前の男は何も悪いと思っていなさそうな謝罪をしてそっと離れていく。
 そうして生まれた“いつも通り”の距離感に少しむ、としつつも「で、何だよ」と問うてみる。

「コンビニ行かね?」
「今は何時だ?」
「まだ日付は越えてない!」
「良い子は寝る時間だぞ」
「じゃあ悪い子で結構~。で、どうする?」

 どうする、とあくまでこちらの意見を聞く形を取っているが、実際のところは俺も一緒に行くことを前提で考えているのだろう。
 ソファから立ち上がった奴は、背もたれに引っかけていたカーディガンをこちらにポンっと投げ渡した。

「昨日から急に寒くなってきたから一応」
「おー」

 渡されたままに袖を通そうとしたところで違和感。若干キツい。
 一度袖を抜いてタグを確認すればなるほど、そりゃキツいはずだ。俺のサイズより一回り小さい。

「おい、これお前の……」
「じゃーん。見ろ見ろ、お化け~」
「…………」

 そこは彼セーターだとか可愛げのある事を言う場面ではないか?
 いやそもそも付き合ってはいないので彼セーターではないのだが。

「おーいおいおい、何だよその微妙な顔!」
「ガキが親父の服着てる図だなと」
「おいこら、誰がガキだよ」
「お前だよ。お前」

 ほら返せ、と手に持った奴のセーターを投げ、こちらに飛んできたセーターを受け取る。
 ふむ。こっちは俺ので間違いない。

「タンス掘ってたらお前の混ざってたからさぁ」
「誰かさんが借りるだけ借りて返さずに一年眠ってたってわけか」
「ごーめんて! コンビニで何か奢るからチャラにして!」
「何選んでも文句言うなよ」
「人並みのやつにしろよ!?」

 
 特徴的な入店音とともに外気とは違った涼しい風が肌を撫でて行く。
 深夜間近にも関わらず不思議と賑やかさを感じる反面、店内には俺たち二人と店員が一人。三人ぼっちのコンビニエンスストア。
 隣でペラペラと喋っていた奴はコンビニに入った途端「何があるかな~」と真っ先にアイスコーナーへと向かっていった。

「秋だっつってんのにアイスかよ」
「アイスは年がら年中いつ食ってもうまいだろうが!」
「それはそう。んじゃ俺はこれ」

 冷凍庫の前でうーんと唸っている横からそっと手を伸ばし一つアイスを取る。
 
「お、いいじゃん黒蜜の。贅沢ぅ」
「これお前の奢りだからな」
「わーかったよ。んじゃ俺は芋のやつ」

 俺の選んだアイスをパッとかっさらってそのままレジへと向かう背中についていく。
 夜だというのに店員との応酬をハキハキとこなす奴の後頭部を見つめていれば、ぴょこと跳ねている毛が目に入る。
 自宅にいる時や夜道では気付かなかったが、こいつ一日中寝ぐせを付けたまま過ごしていたのだろうか……。

「お待たせ……ってどした?」
「いや……何でもない。帰っぞ」

 まあでも後は帰るだけだ。それに誰かに見られたとて、恥ずかしい思いをするのはこいつなのだから何も問題はない。
 入店時と同じように明るい音楽、そして店員の「あっしたー」の声をバックに外へ出ればぬるい空気が漂っている。
 確かに涼しくなったとはいえ湿気はまだ残っているようで、二人歩いていると少しカーディガンが重く感じる。
 
「なんかさ、夜こうやって外出てるとワクワクしないか?」
「悪い事してるみたいで?」
「そう! ちょっとワルになった気分になる」

 隣の男はケラケラと笑ってそんでさ、と中身のない話を始める。

 何かの記念日だったわけでもないし、特別な事をしているわけでもない。
 月だって満月を通り越して欠け始めているし、星もまばらだ。
 ただこうやって何でもない会話をしながらリーリーと虫の鳴く夜道を歩いている。
 それだけの事なのにただの夜とはちょっと違うものに感じてくるものだから不思議だ。

「んで。帰ったらこれ食うのか?」
「え、食わないの? アイス溶けるぜ?」
「太るぞ」
「動けば問題ないって」
 
 帰ったらアイスを食べて、そのままゲームをしてから寝る。
 きっと恋人同士であればまた味の違うスイーツを味わえたかもしれないが。いまはこれでいい。
 何でもない夜を二人で過ごす。親友同士の夜は、まだ続く。▶とじる

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#きしナポ

創作BL