千の夜も夢さえあれば寂しくない クトゥルフ神話TRPGシナリオ「不辜のサァカス ナイフノモツレ」(作者:popo様/臓器売買)のネタバレがあります。 探索者の二次創作です。 あくまでも自分がこのシナリオを経て書きたくなった妄想SSです。 NPCの喋り方は完全に妄想なので薄目でお願いします。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ✄- – – 現行未通過× – – ✄ 路地裏から大通りを歩く人間たちを、露店を睨みつける。 大きく声を上げながら物を売っている大人たちは、一歩後ろにいる存在に気付いている様子はない。 そっと腕を伸ばし、店頭に置かれていたジャガイモを取りサッと暗がりへと戻る。 追手が来ていないだろうかと後ろを振り返れば、どうやら彼らは盗られたことにすら気付いていないようだ。 運が良かった。武力行使となると子供である自分は圧倒的に不利だから。 (……今日はこれでなんとかなるといいな) 生のままのイモを齧る。味なんてものはよくわからないが、食感はいいと思う。 生まれるよりももっと前に人生のくじ引きでハズレを引いてしまったのだろう。自分には最初から抱き締めてくれる父親も、笑いかけてくれる母親もいなかった。 そして愛想が欠片もないせいで他の奴らと一緒に物を売って生きるなんてことも出来ず、たった一人で盗みを重ねて毎日を生きていた。 (誰も見てすらくれないのに笑って声をかけたって、意味ないじゃん) 自分と同じように貧しい装いをした子供たちが広場で何かを売り出している。 チラリと目をやると彼らの売っているソレに、何故だか見られているような気がした。 そういえば誰かが言っていた、確か邪視から災いをはねのけるお守りなんてものがあるのだと。 (何だよ、僕がやましい生き物だって言いたいの?) ──青い瞳なんて最初から何も持っていない人間にとっては意味のない飾りだ。 居心地が悪くなってふい、とお守りから目を逸らす。 目の端で子供たちの中で一番大きい少年が、他の子たちの頭に自身の手をポンと置いているのが見えた。 (……馬鹿だな。一人なら食い扶持とか気にしなくていいのに) その光景が、何故だか脳に残った。 (…………最悪、ほんとに、最悪) 今日も今日とて生きるために出来ることをしていたが、結果はこの通り。 失敗した、の一言に尽きる状態。ボロボロになった体をゆっくりと起こす。 (痛い、全部全部痛い。もうやだ) 視界がユラユラと揺れているのに気付いて、ゴシゴシと目を擦る。 泣き言を言っている場合ではない、このまま食いっぱぐれてしまってはそれこそおしまいだ。 (あ、そういえば……) 食糧にありつける可能性が高い市街地から出たことがあまりないが、少し離れた場所にテントが立っているのは知っていた。 思い立ったが吉日、行くしかない。痛む体を抱き締め、記憶を頼りにフラフラと歩く。 (食べれるもの、あったら嬉しいけど……) 期待なんてするものじゃない、頭を軽く振って歩みを進める。 暫くして大きなテントが見えてきた。 念のためと周囲を見渡すが人の気配はなく、辺りはしんと静まり返っていた。 ひと息つき食糧を求めテントにそっと忍び込むと、目の前には荷台がズラリと並んでいた。 (……! 当たり、だ) 手近な荷台を開くとそこには芽は生えているものの、食べられそうなジャガイモが入っていた。 もう一度人が来ないことを確認してから手に取り、齧りつく。 シャキシャキとは程遠い柔い食感とともに、土の匂いが口の中に広がる。 状態はあまり良いものとは言い難いが、食べられるだけで満足だ。 一つ、もう一つと手を伸ばしていると、閉めていたはずの入口から月明かりが差し込んでいるのに気付き顔を上げてみれば、そこには自分を見つめる大男がいた。 手の中にあったイモは転げ落ち、血の気が引くのを感じる。あぁ、終わった。 せめて怒鳴り散らすだけにして欲しい、と願うのは高望みし過ぎだろうか。 自分に伸ばされた男の手を見て、ギュッと目を瞑る。 これから振り下ろされるであろう拳から身を守るようにして構えていると、想像していたよりも優しい衝撃が頭から伝わる。 「そのまま食ったら美味くねぇし、腹も壊すぞ!」 馬鹿みたいに明るい声がテントの中に響く。 頭に乗せられた手と、かけられた言葉の意味を理解できず呆然としていると目の前の男はニカッと笑い続ける。 「大丈夫だ。取って食おうなんて思ってないさ」 「ぁ、えっ……」 「ほら、一緒にこっち来い。ちゃんとした飯、食わせてやる!」 そう言うと彼はもう一度、人の頭を乱暴に撫でる。 (怒られ、ない? 何、何で? ちゃんとした飯って……) 「ん? 腹が減り過ぎて動けないか?」 こちらの顔を覗き込むように見てくる瞳から顔を背けると、突然浮遊感に襲われる。 先ほどまで接していた地面が遠く感じる。抱き抱えられているのだと、気付いた。 「は、な、なに」 「ちゃんと掴まっとけよ、危ないからな」 人の困惑も何のその、気にする様子もなく彼は自分のことを連れてテントから出る。 「まずは飯食って、寝て、それから話をしよう!」 「な、んの、こと」 「っと、その前に治療した方が良いか?」 「はなし、きいて!」 「わかったわかった、後でちゃんと聞いてやる」 彼の声からは怒気や悪意を一切感じない。本当に、何なのだろう。疑問しかない。 「俺はウムト。このサーカス団の団長だ」 「さぁ、かす」 「おう。サーカスはいいぞ、みんなを笑顔に出来る夢みたいなもんだ!」 「ゆめ」 「夢だ! 千の夜も夢さえあれば寂しくないんだって、知ってるか?」 「よく、わかんない」 だよなぁ、と笑う彼の言葉を脳内で転がす。 (夢。笑顔。……サーカス) 縁のない単語がズラリと並ぶ。腹が膨れるはずのないそれらに、惹かれるものはない。 でも、と自分を抱えている腕を見る。 (……大人しくしとけば、ご飯。食べれるのかもしれない) 何故だろうか、あの日見た子供たちの様子が頭に過ぎった。 ▶とじる ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ #カスモツ #ナイ 2022.10.27(Thu) 怪文章
クトゥルフ神話TRPGシナリオ「不辜のサァカス ナイフノモツレ」(作者:popo様/臓器売買)のネタバレがあります。
探索者の二次創作です。
あくまでも自分がこのシナリオを経て書きたくなった妄想SSです。
NPCの喋り方は完全に妄想なので薄目でお願いします。
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路地裏から大通りを歩く人間たちを、露店を睨みつける。
大きく声を上げながら物を売っている大人たちは、一歩後ろにいる存在に気付いている様子はない。
そっと腕を伸ばし、店頭に置かれていたジャガイモを取りサッと暗がりへと戻る。
追手が来ていないだろうかと後ろを振り返れば、どうやら彼らは盗られたことにすら気付いていないようだ。
運が良かった。武力行使となると子供である自分は圧倒的に不利だから。
(……今日はこれでなんとかなるといいな)
生のままのイモを齧る。味なんてものはよくわからないが、食感はいいと思う。
生まれるよりももっと前に人生のくじ引きでハズレを引いてしまったのだろう。自分には最初から抱き締めてくれる父親も、笑いかけてくれる母親もいなかった。
そして愛想が欠片もないせいで他の奴らと一緒に物を売って生きるなんてことも出来ず、たった一人で盗みを重ねて毎日を生きていた。
(誰も見てすらくれないのに笑って声をかけたって、意味ないじゃん)
自分と同じように貧しい装いをした子供たちが広場で何かを売り出している。
チラリと目をやると彼らの売っているソレに、何故だか見られているような気がした。
そういえば誰かが言っていた、確か邪視から災いをはねのけるお守りなんてものがあるのだと。
(何だよ、僕がやましい生き物だって言いたいの?)
──青い瞳なんて最初から何も持っていない人間にとっては意味のない飾りだ。
居心地が悪くなってふい、とお守りから目を逸らす。
目の端で子供たちの中で一番大きい少年が、他の子たちの頭に自身の手をポンと置いているのが見えた。
(……馬鹿だな。一人なら食い扶持とか気にしなくていいのに)
その光景が、何故だか脳に残った。
(…………最悪、ほんとに、最悪)
今日も今日とて生きるために出来ることをしていたが、結果はこの通り。
失敗した、の一言に尽きる状態。ボロボロになった体をゆっくりと起こす。
(痛い、全部全部痛い。もうやだ)
視界がユラユラと揺れているのに気付いて、ゴシゴシと目を擦る。
泣き言を言っている場合ではない、このまま食いっぱぐれてしまってはそれこそおしまいだ。
(あ、そういえば……)
食糧にありつける可能性が高い市街地から出たことがあまりないが、少し離れた場所にテントが立っているのは知っていた。
思い立ったが吉日、行くしかない。痛む体を抱き締め、記憶を頼りにフラフラと歩く。
(食べれるもの、あったら嬉しいけど……)
期待なんてするものじゃない、頭を軽く振って歩みを進める。
暫くして大きなテントが見えてきた。
念のためと周囲を見渡すが人の気配はなく、辺りはしんと静まり返っていた。
ひと息つき食糧を求めテントにそっと忍び込むと、目の前には荷台がズラリと並んでいた。
(……! 当たり、だ)
手近な荷台を開くとそこには芽は生えているものの、食べられそうなジャガイモが入っていた。
もう一度人が来ないことを確認してから手に取り、齧りつく。
シャキシャキとは程遠い柔い食感とともに、土の匂いが口の中に広がる。
状態はあまり良いものとは言い難いが、食べられるだけで満足だ。
一つ、もう一つと手を伸ばしていると、閉めていたはずの入口から月明かりが差し込んでいるのに気付き顔を上げてみれば、そこには自分を見つめる大男がいた。
手の中にあったイモは転げ落ち、血の気が引くのを感じる。あぁ、終わった。
せめて怒鳴り散らすだけにして欲しい、と願うのは高望みし過ぎだろうか。
自分に伸ばされた男の手を見て、ギュッと目を瞑る。
これから振り下ろされるであろう拳から身を守るようにして構えていると、想像していたよりも優しい衝撃が頭から伝わる。
「そのまま食ったら美味くねぇし、腹も壊すぞ!」
馬鹿みたいに明るい声がテントの中に響く。
頭に乗せられた手と、かけられた言葉の意味を理解できず呆然としていると目の前の男はニカッと笑い続ける。
「大丈夫だ。取って食おうなんて思ってないさ」
「ぁ、えっ……」
「ほら、一緒にこっち来い。ちゃんとした飯、食わせてやる!」
そう言うと彼はもう一度、人の頭を乱暴に撫でる。
(怒られ、ない? 何、何で? ちゃんとした飯って……)
「ん? 腹が減り過ぎて動けないか?」
こちらの顔を覗き込むように見てくる瞳から顔を背けると、突然浮遊感に襲われる。
先ほどまで接していた地面が遠く感じる。抱き抱えられているのだと、気付いた。
「は、な、なに」
「ちゃんと掴まっとけよ、危ないからな」
人の困惑も何のその、気にする様子もなく彼は自分のことを連れてテントから出る。
「まずは飯食って、寝て、それから話をしよう!」
「な、んの、こと」
「っと、その前に治療した方が良いか?」
「はなし、きいて!」
「わかったわかった、後でちゃんと聞いてやる」
彼の声からは怒気や悪意を一切感じない。本当に、何なのだろう。疑問しかない。
「俺はウムト。このサーカス団の団長だ」
「さぁ、かす」
「おう。サーカスはいいぞ、みんなを笑顔に出来る夢みたいなもんだ!」
「ゆめ」
「夢だ! 千の夜も夢さえあれば寂しくないんだって、知ってるか?」
「よく、わかんない」
だよなぁ、と笑う彼の言葉を脳内で転がす。
(夢。笑顔。……サーカス)
縁のない単語がズラリと並ぶ。腹が膨れるはずのないそれらに、惹かれるものはない。
でも、と自分を抱えている腕を見る。
(……大人しくしとけば、ご飯。食べれるのかもしれない)
何故だろうか、あの日見た子供たちの様子が頭に過ぎった。
▶とじる
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