いぬの夜鳴き

夜鳴きと怪文書

No.10

柳に雪折れなし

クトゥルフ神話TRPGシナリオ「庭師は何を口遊む」(作者:USB様)のネタバレがあります。

探索者の二次創作です。
あくまでも自分がこのシナリオを経て書きたくなった妄想SSです。
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「遅れちまったけど今年もやりますか」
 がさがさとビニールの中からケーキを取り出す。
 クリスマスという日にぴったりの、いちごのショートケーキ。オレ自身はあまり好きではない、ただ妹はこれが大好きだった。「真っ赤ないちごは甘すぎない方がクリームに合うの」とは彼女談。
 妹と離れてから毎年、コンビニで買う二ピースセットのショートケーキを、今年は年越しそば代わりのカップ麺とともに並べる。そしてこれまでのクリスマスとは唯一違う部分。証拠の一つだった彼女の写真を胸ポケットから取り出す。
「今年はようやっと、兄妹揃ってのクリスマスだな」
 少し皺になったそれを、これまで彼女の代わりに食卓に並んでいたタヌキのキーホルダーの隣に置く。
 すっかり大人になった彼女の顔、自分のいない間彼女に何があったのかはあの手帳でしか確認できていない。だって……。
「──やめやめ、せっかくのパーティーだ」
 脳裏にこびりついて離れない映像を無理矢理振り払う。楽しいことを考えよう。そうだ、例えば。
「実はさ、休み取れたんだよ。今日から年始まで!」
 なんだかんだで毎年バタバタしていることが多かったから、のんびりとした年始は久しぶりどころではないかもしれない。
 自分以外にいないこの部屋で一人、言葉を紡ぐ。
「……うん、兄ちゃんさ。ちょっとずつだけど考えてみようと思う、これからのこと」
 生きる目的と化していたものが無くなって、迷子にでもなったようなそんな気分であの日から過ごしていたけれど。少しばかり未来について考えようと思った。時間があったから、というのもあるけれど、零課のメンバーを見ていたら下ばかり向いているわけにはいかなくなってしまった。
「とはいえオレに何ができんだって話だけどなー」
 彼らのために少しでもできることといえば、地味な情報収集を受け持つぐらいだ。それとちょっとだけ息抜きに付き合うとか。
「ま、できるところからやっていこうと思うよ」
 応援してくれるか、と写真に写る彼女のデコをつつく。
「あ、やっべ! そば伸びちまった!」
 慌ててカップ麺の蓋を開ける。すっかり伸びてしまった麺を目にあちゃあ、と一言。
 さて、遅いクリスマス会を始めるとしましょうか。
▶とじる

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#庭師 #柳徹平

怪文章